70年続くメリヤス生地メーカー風神莫大小02| 変わらない製造技術と、変わり続ける覚悟。
70年ものの古い編機によって編み上げられる風合いのあるメリヤス生地と、その編機を知り尽くした熟練の技術で、多くのブランドの生地づくりを支える風神莫大小(かぜかみめりやす)。丸編ニットの一大産地である和歌山県のメリヤスメーカーだ。
変わらない本物を追求して服づくりを続けてきた、wjkのニットやジャージー商品など、創世記からリリースしている重要なアイテムもこの技術に支えられている。
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要望に応え、編み続けるためのものづくり
風神莫大小には、その良質な生地を求めて国内外問わず、多くのブランドや生地メーカーから依頼がある。しかし、その生地製造の依頼の中には、編機のスペックを超えたものも少なくないという。ここで言うスペックとは、「不可能」ではなく「持続不可能」という意味合いだ。
車に例えるなら、速度メーターに180キロの表示は存在し、物理的にそのスピードを出すこともできるが、実際にその速度を出し続けたら車体に大きな負荷がかかる。最悪の場合エンジンが壊れて動かなくなってしまう。編機も同様に、編む糸の太さが太すぎたり、目を詰めすぎたりすると貴重な機械に大きな負荷がかかり、編み続けることができなくなってしまう。このスペックと要望とをマッチングさせるためには、長年培われた技術が必要となる。
また、品質の良い糸はしなやかで編みやすくトラブルも少ないが、安価な糸は編む途中で切れたりとトラブルが絶えない。一度糸が切れてしまったら、切れた箇所から手作業で糸をかけ直すことになり、人件費もかかる。
良い糸を選び、編機に適した編み方を選ぶことはユーザーにとってだけでなく、良いものを「つくり続ける」ためにも重要になる。こういった実態を知らないとブランドは、コスト重視で完成品のイメージ先行の一方的な要望を伝えてしまいがちだ。長く編み続けられ、長く着続けてもらえる本物の服をつくるためには、ブランド側にも現場の視点が必要となる。
ものづくりの起点と終点
つくれば何でも売れるような時代が終わって久しいが、今は特に残り続けるためには強いオリジナリティや核となるコンセプトが求められる。そんな中、風神莫大小にはニューヨークをはじめとする海外ブランドからの引き合いもあるが、海外と日本のブランドでは、ものづくりの「起点」と「終点」が異なるのだと風神社長は言う。
一般的に日本のブランドでは予算が先に決まり、そこにハマる素材や工程を選びながらものづくりをする「逆算方式」だ。一方で海外には、「この生地で服をつくりたい」という起点から、生地や工程を選んでいった結果が製品の価格になる「積み上げ方式」のブランドも多くある。結果として、高価な服に仕上がることになるが、そうしてつくられた本物の服に袖を通し、長く付き合いたいと思うユーザーは増えている。
完成までの過程も、一方的に要望を伝えられるのではなく、一緒にディスカッションをし、面白いものができあがる。持続可能なものづくりのあり方だ。従来の日本のものづくりのあり方では、今後さらにアパレルは苦境に立たされるだろうと、風神社長は危惧の念を抱いている。
日本のメリヤス生地を海外へ
風神莫大小は70年続く老舗であり、今の風神社長で四代目。創業当時から生地製造の工程は変わらず、糸を買い、生地を編み、染色の工場へ送る。ただ、製造の流れは変わらずとも、時流の変化と共につくるものは変化してきた。創業当時は下着などのメリヤス生地を大量に生産し、つくればつくるだけお金になるような時代だったが、そこからバブルが崩壊し生地製造も中国生産へシフト。変化を迫られ、転換期にはさまざまな種類のメリヤス生地を手がけてきたが、現在では下着などのメリヤス生地とスエットなどの裏毛の生地の2つに強みを絞り、生地づくりを続けてきた。
実は風神社長は、家業を継ぐ前は繊維系の商社に勤めていたそう。そこでアラブ人女性が頭に巻く「ヒジャブ」などの衣装の生地輸出に携わっていたが、実は、現地で扱われるヒジャブの生地シェアはほとんどが日本製。風神社長は当時から、「アラブ人のほとんどが着用する服の生地シェアを日本製が占めているのだから、日本のメリヤス生地が海外で売れない訳がない」と感じていた。そして10年前に四代目として家業を継ぐ際には、生地の海外輸出に力を入れることを決めたという。
海外に目を向けると、かつてコスト削減のための製造拠点であった中国は、今や年収1億円を超える国民が1億人もいる国だ。古い機械にしか出せない質感や風合いを、その富裕層の人たちはよく理解している。また、ニューヨークには1m数万円もする高級な生地を個人で一反購入する人もいる。また、その生地の質に魅せられて、人伝てに問い合わせが来ることも。そんな海外に向けて、風神莫大小の生地を届けたいというのが風神社長の就任時からの想いだ。
新たな生地素材開発への挑戦
創業以来、一般的な衣料品分野においての生地製造をしてきた風神莫大小だが、数年前から新しい機能性生地の開発にも取り組んでいる。それが、銀成分を生地に編み込んだ「シルバーコットン」だ。
現在では銀イオンには抗菌効果があることが分かっているが、ヒ素などの毒に反応して黒く変色する性質を持つ銀は、歴史的には毒見用の食器に使われてきたりと、人を守るためにも活用されてきた金属だ。
その銀を編み込んだシルバーコットン生地には、抗菌・制菌作用と共に保温効果も期待できる。抗菌制菌の認証マークである「SEKマーク」を取得することで、医療や介護用のタオル、災害用品としてのブランケット、菌の増殖を防ぐスポーツ用衣類などへの展開も目指しているという。依頼に応えるだけでなく、コア技術を活かした開発にも力を入れている。
変わりながらも、変わらないということ
新規事業を軌道に乗せながらも、変わらずメリヤス生地製造という核を守ってきた風神莫大小。その価値を1番に感じているのは、やはり日々商品に触れるお客さまだという。
あるクライアントで、数年に一度取引きがなくなり、さらにその1年後に依頼を再開するループを何度も繰り返している企業があるそうだ。その企業では、数年に1度部内の担当が変わる仕組みがあり、新任担当に変わると真っ先にコスト削減のために生地メーカーを海外の安い工場に変える決断をする。しかし、そうすると決まってその年はリピートユーザーの多くがブランドを離れてしまうのだ。
まさに商品の品質を「肌で」感じているユーザーの感覚は誤魔化せない。ブランドは大量の在庫を抱えてようやく「変えてはいけないものを変えてしまった」と気付き、再度風神莫大小に依頼をする。しかし、また数年後に担当が変わると…
良い糸を使うだけでなく、編機次第で全く違うものが出来上がる。それは、日々その商品に触れているユーザーにとっては大きな違いだ。自らの服づくりの核を守ること、そしてその価値を認めてくれる方たちを裏切らないこと。その「不変」を貫く覚悟の重要性を改めて感じさせられる。
100年企業を目指して
「なんでもやってみる精神」で新たな道を切り開いてきた風神社長だが、一緒に働く従業員には女性が多いという。昔から男性が多い業界だが、先入観を持たずにその人自身を見て縁をつないできた結果、女性ならではの細やかな仕事がオリジナルブランドの運営にも活かされているという。女性は出産や育児で職を離れる可能性もあるが、地域の雇用を支え、将来風神莫大小を離れても通用する技術を身につけてもらいたいという思いがあるという。
「変えてはならない核は守り。変わるべき岐路では大胆に変化していく」。新たな道を次々と切り開く風神社長が目指すのは、100年続くメリヤスメーカー。wjkの服づくりを支える風神莫大小は、まさにwjkが目指す「これからあるべき不変の形」を体現する企業だ。
【70年続くメリヤス生地メーカー風神莫大小01|wjkのものづくりを支える技術。 https://wjkproject.com/story05/story05 |